新人教育で看護職の間でも少しずつ浸透し始めているのが「社会人基礎力」です。今を生きる看護職の皆さんには本当に必要な能力だと私は実感しています。今日はこの「社会人基礎力」についてざっくり書いていきたいと思います。
「私」と「社会人基礎力」の出会い
私がこの言葉に出会ったのは、5年ほど前に今の部署で新人教育を任された時でした。いわゆる「プリセプティ会」とか「フレッシュナース会」とか言うものですね。新人さん同士が月に1回集まって、お互いの仕事に対する悩みとかを話したり一緒に勉強したりする場でしょうか。
私はこのお話を頂いた時に、「ただのお悩み相談会」にはしたくないなと思いました。例年見ていると悩みや不安の共有はしていても、それらの解決には至ってないのが現実でした。ただのストレスのはけ口でしたら仕事中(実際には残業ですけど)の貴重な時間を使ってやるよりも仲間内だったり、あるいはSNSを使ったりすることで十分可能です。むしろ現代の若者であればそういった事は得意なのかなと感じています。
では新人教育で何をしていきたいか?私の出した答えは「自分で考え、行動できる人になってもらう」というコンセプトです。スキルアップも職場のストレスも基本的には「全て自分で解決するもの」だと思います。「全て自分で」といっても100%一人で解決するわけではなく、何が問題で、誰に相談して、どう行動したらいいのか、を考えられる人になって欲しいということですね。
そこでいろいろビジネス書などを読み漁りましたが、正直何を教えたらいいのかわからなくなりました。あくまでも「自分でなんとかできるようになる」が目的ですから、How to本で表面的なスキルを教えてもいつかは応用が効かなくなります。そこで出会ったのが「社会人基礎力」という言葉でした。
そもそも社会人基礎力とは?
社会人基礎力とは2006年に経済産業省が提唱した概念です。「職場や地域社会で使い力」とか「多様な人々と仕事するための力」と言われていますが、要するに「働く」ということに焦点をあてた能力ということですね。
社会人基礎力は「3つの能力」と「12の能力要素」で構成されています。
3つの能力とは
- 【アクション】(前に踏み出す力)
- 【シンキング】(考え抜く力)
- 【チームワーク】(チームで働く力)
更に3つの能力は能力要素にによって細かく分けられています。
12の能力要素とは
アクション:「主体性」「働きかけ力」「実行力」
シンキング:「課題発見力」「計画力」「創造力」
チームワーク:「発信力」「傾聴力」「柔軟性」「状況把握力」「規律性」
「ストレスコントロール力」
「働く」と一言で表しても社会人になるとこれだけの能力が必要になります。
言葉は難しくても、そのほとんどが普段何気なく使っている能力です。
この「何気なく使う」を「意図して使う」に置き換えて行くだけで、仕事の質も能力も各段に上がっていきます。
看護職にとっての社会人基礎力とは?
では看護職にとって社会人基礎力を養う意味とはなんでしょうか?その答えは次の3つになります。
- 今までの生活になかった体験を補う
- 「同調的コミュニケーション」から「問題思考型コミュニケーション」へ
- 時代の変化に適応できるようになる
今までの生活になかった体験を補う
働く上で必要になることには、今までに体験したことのないものも沢山あります。
私が体験で言うと、臨地実習に訪れた看護学生さんが患者さんの入浴介助を計画してきた時のことです。
事細かに注意点などを確認して、いざ入浴といった時に「お湯ってどうやって入れるんですか?」と言われたのです。
病院の浴槽は蛇口をひねって水と熱湯のバランスを調整してお湯を張ります。
そうなんです!! 学生さんは「蛇口をひねってお湯を出す」ということをやったことがなかったのです。
これにはさすがに驚きました。もう医療とか看護とかではなく、それ以前の問題だったのですね。
しかし今の世の中、わざわざ水温計使ってお湯の温度を確認する必要はないですよね。
ボタン一つでお風呂を沸かす生活ができる今、想像がつかないのは当然のことかもしれません。
看護の世界は「日常生活」と深く結びついてます。なぜなら患者さんの「生活を整える」ということも看護の一つなのです。
こういった小さな出来事も大事な経験であり必要な能力なのです。
「同調的コミュニケーション」から「問題思考型コミュニケーション」へ
コミュニケーションのスタイルには大きく2つに分けられます
- 同調的コミュニケーション
- 問題思考型コミュニケーション
前者は主に幼少期や学生時までに行われるコミュニケーションスタイルです。
TwitterやInstagramを使って日常生活の出来事を投稿したり、同年代の友人とお喋りすることの意味は「自分の気持ちや体験を誰かに共有して欲しい」という点にあります。
これに対して後者は働く上で必要になるコミュニケーションスタイルです。
業務的コミュニケーションの大半は「問題を見つけて解決する」ことを目的としています。
例えば、医療現場では「患者の健康問題」や「職場環境の問題」が挙げられます。看護の世界では熱意もパワーも満ち溢れている新人時代は「もっと患者さんの事をし知って、患者さんのためになるケアをしていこう」と一生懸命に情報収集をしているものです。しかし仕事に慣れてくると「先輩の質問に答えられないとマズいから」とか「早く仕事を終わらせたいから」といった「自分が辛くならないための情報収集」だったり「業務効率重視の情報収集」になりがちです。こういう情報収集をしていると結局のところどこか抜けてしまい、かえって先輩に指摘されたり業務効率が悪くなることがあります。常に「問題を解決する」という思考とコミュニケーションを意識する必要があるわけですね。
時代の変化に適応できるようになる
現代の医療技術や知識は日進月歩で本当に発展するスピードが速いです。裏を返すと「技術や知識の寿命が短くなっている」ということです。
ここで言う寿命とは「使う価値がある」と置き換えても良いでしょう。必要になるのは「学び直し」というスタンスです。
「学び直し」のサイクルはどんどん短くなっています。早いスパンで効率的に学び直していくには、「習慣化」していく必要があります。
さらに現代の医療現場では多職種との連携が不可欠で、それにより業務の細分化も進んできています。
看護という分野においても専門性や付加価値と言った波は少しずつ近づいてきています。これから看護職を目指す人も、今看護職として働いている人も「自分の専門性や付加価値」について考えていかなければならない時代に突入していますね。
新しいことを学び、チャレンジし、考えて行動する、多職種と連携して仕事する。これらにとって社会人基礎力は必須な能力となるわけです。
社会人基礎力を身につけるメリット
私なりに社会人基礎力を身につけるメリットは以下の2つかと考えます
- とにかく仕事がしやすくなる
- 異動・転職に強くなる
私自身が社会人基礎力を勉強して非常に実感できたのは、「仕事の進め方や考え方がわかる」ということです。日常業務の中での段取りだったり、先輩や上司との相談、目標に対しての計画、日々様々な場面で「何気なくやっている」ことが「意識的にできる」ようになりました。
私は過去2度の転職をしていますが、転職は物凄くエネルギーを使いとてもストレスのかかるイベントです。上司や看護部長との退職に向けた面談や次の職場探しに向けた病院見学、入社試験や面接。新しい職場に入ってからの環境の変化や人間関係のストレス。看護職の転職で特に大きいのは環境の変化によるストレスではないでしょうか?看護職のスキルって一度習得すればどこでも使っていけることが多いと思いますが、細かいところで違っていたり、「自分のやり方が通じない」と思うことが沢山あります。社会人基礎力で柔軟性やコミュニケーション能力を学んでいれば、もっと自分に負荷をかけずに転職できたんじゃないかなと感じています。
社会人基礎力を学ぶタイミングは?
社会人基礎力というと、何となく新人や若手向けなトピックスに聞こえます。結論から言うとこれは間違いです。
社会人基礎力に必要な「3つの視点」とリフレクション(振り返り)
2018年の働き方改革により、経済産業省はこの社会人基礎力にあらたな3つの視点を追加しました。
社会人基礎力「3つの視点」
- 【学び】(何を学ぶか)
- 【統合】(どのように学ぶか)
- 【目的】(どう活躍するか)
これらは「人生100年時代」において個人が企業・組織・社会との関わりの中で、ライフステージの各段階で活躍し続けるために位置付けられた視点です。これにより若年層~中年層~高齢まで幅広く社会人基礎力を磨き続けることが必要と定義されました。看護職においても働き方改革や高齢まで働くという時代の波は確実に訪れていますので、これらを無視しては今後自身の能力を発揮して働くことは困難になるでしょう。
【学び】(何を学ぶか)
この視点では具体的に何を学ぶか、ではなく「何を学ぶべきなのか」を自ら考え「学び続ける力を持つこと」という意味になります。
人生100年時代を迎える今、自分の長所と短所をしっかり把握することはより一層重要視されます。経験を積むことで技術も知識も磨かれていきますが、時代の変化に適応できるように「学び続ける力」が必要になってきます。
【統合】(どのように学ぶか)
体験や経験によって蓄積した知識・技術により、自分の視野は広がっていきます。自分の身につけたスキルを活かし、多様な人々の得意なものと組み合わせて(統合)、目的や課題の実現に取り組んでいく視点です。
医療現場でも業務の細分化や専門性の発揮が進んできています。そのため、自身の能力だけでは限界も出てくることは容易に想像がつく事でしょう。そのため「チームで働く」という視点はとても大切です。個々の能力を発揮しつつ、チームとして成果を上げるということですね。
【目的】(どう活躍するか)
これは「自己実現や社会貢献に向けて行動する」と定義されています。特に若年層と中堅層では働き方や目的、立場など多くの部分で違いがでてきます。
私は最近、この【目的】を見いだせない看護師さんが増えているように感じます。新人さんよりも、仕事に慣れてきた3~4年目の看護師さんに「これからどんな看護師として働きたいの?」と聞いても「特に考えてません」「わかりません」などの答えも少なくありません。日々の仕事に追われる中で自分の能力や価値を振り返ることができず、目的を定めることができない現実があるようです。
リフレクション(振り返り)
これら3つの視点を持つことは大切ですが、どこか一点で考えるのではなく、長いライフサイクルのなかで常に自身の長所・短所・能力・目的・などを振り返りながら進んでいくことが大切になります。
まとめ
今回は社会人基礎力についてと看護職が社会人基礎力を身につける意味についてざっくりお話してきました。今回の内容をまとめてみましょう。
- 社会人基礎力とは?
- 経済産業省により定義された「働く」ことに焦点を当てた能力
- 「3つの能力」と「12の能力要素」によって構成されている
- 看護職にとっての社会人基礎力とは?
- 今までの生活になかった体験を補う
- 「同調的コミュニケーション」を「問題思考型コミュニケーション」にする
- 時代の変化に適応できるようになる
- 社会人基礎力を身につけるメリット
- とにかく仕事がしやすくなる
- 異動・転職に強くなる
- 社会人基礎力を学ぶタイミングは?
- 新人~ベテランまで幅広く「学び続ける」
- 3つの視点:【学び】【統合】【目的】を持ち続ける
- 人生100年時代のライフサイクルにおいて「振り返る」ことが大切
細かな能力や要素については今回はお話していませんが、今後書いていけたらと思います。
最後まで読んで頂いて有難うございます。質問やお問い合わせなどありましたら是非とも!!
社会人基礎力を学んで、豊かなライフサイクルを進んでいきましょう。
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